アレグロ・エネルジコ マ・ノン・トロッポ

大好きなショスタコーヴィチ先生やマーラー監督の音楽をめぐっての考察(妄想とも言います)や、
出かけたコンサートの感想などを中心にして好きなものごとについて綴っております。

February 2010

名古屋フィルハーモニー交響楽団第366回定期演奏会
〈四季シリーズ〉早春
チラシ 069ラヴェル:スペイン狂詩曲
ルトスワフスキ:オーボエとハープのための二重協奏曲*
(アンコール)ルトスワフスキ:魔法
ホリガー:クリスティアン・モルゲンシュテルンの詩による6つの歌**〈日本初演〉
(アンコール)同曲より第3曲『蝶』をもう一度
シューマン:交響曲第1番変ロ長調作品38『春』

指揮:ハンス・ホリガー
ハープ:ウルスラ・ホリガー*
ソプラノ:秦茂子**

2010年2月26日(金)18:45〜
愛知県芸術劇場コンサートホール


早春どころか春たけなわの気温が続いていますね。。。

お誘いを受けて今回の定期演奏会は金曜日に出かけました。

直前に、ご一緒させていただいた方からかなり気がかりな話(演奏会やJohnnyとは全く関係ありません)を聞いたせいか、ホールが異様に暑かったせいか、なかなか集中できなくて、気が緩むと、心は気になる話のほうに向いていて「???」な感が強かったので感想文が書けるかどうか不安ですが頑張ります。

その前にひとこと言わせてください。
「お客さんっ!拍手早すぎ!席立つのあまりにも早すぎ!!」

プログラムがかなり渋いこともあってか、お客さんの入りは7割ぐらいと感じました。
そして演奏会よりも気になることがあったのかもしれませんが、いわゆるセレクト・プラチナ席がごっそりと空いていました〜。。。

今回の席は2階のR1列7番というステージに非常に近い、というかステージ奥の上という場所で、ホリガーさんの顔をしっかりと見ることができました。
非常に楽しげに嬉しそうに、のびのびと指揮していらっしゃったのが印象的でした。

ラヴェル:スペイン狂詩曲
す、すみません!
記憶にありません。。。というか、何というか、ちょっとバラバラっとしていたなという記憶以外ありません。
気がかりなことが気になっていたので心がうつろでした。。。

ルトスワフスキ:オーボエとハープのための二重協奏曲&アンコール
1曲目が終わっていったんステージが暗くなりました。
そして、そこそこの規模の編成だった椅子の配置を小規模用に並べ替えるのですが、この動きが非常に複雑にして、かつ、無駄がないんですねぇ。
ああ、こういう人たちをプロと呼ぶのだわと感動しながら、ステージ上をきびきびと動き回る人たちを眺めておりました。よく見える席だったし。。。
最後に半円状に並べた椅子の中心に当たる部分にハープを置くわけなんですが、きびきびマンのひとりがハープをひょいと担いで運び入れたのでびっくり!
一人で運べる重さだったんですか。。。

そして、コバルトブルーのドレスに身を包んだウルスラさん登場!

この曲に関しては予習をしていなかったのが致命的であったと思います。
第1楽章が始まったときに感じたこと→シュトゥックハウゼン?
ヘリコプターの羽のばらばらという音を彷彿とさせるような弦の激しいパッセージにオーボエとハープが絡んでいくのですが、あえて音色から艶を除いたようなオーボエの音が「VVVVV」と聴こえ興味深く面白かったです。
そして、ホリガーさんはこの曲でも当然指揮をしていらっしゃるわけですが、指揮というより、「もっともっと」と両手で鼓舞するような動きで、これがまた楽しゅうございました。
第2楽章が始まったときに感じたこと→ペンデレツキ?
最初はピッツィカートの弦がハープとあれこれと対話し、そこに打楽器があまり自己主張することなく加わって曲は進んでいきます。
第3楽章で、ホリガーさんのオーボエは炸裂。普通のオーボエの音ではないんですね。
「VVVVVVV」とか「VrVrVrVr」とか「ぶぃ〜ん」という音でもって、おどけた感じの奇妙なメロディを奏で、曲を楽しいものに変えていきました。
ホリガーさんのオーボエの妙技は素晴らしく、この曲がスイスの指揮者パウル・ザッハーの委嘱によってホリガー夫妻のために作曲されたという理由もよくわかる気がいたしました。

ホリガー:クリスティアン・モルゲンシュテルンの詩による6つの歌(日本初演)&アンコール
ウルスラさんのドレスの色を一段階明るくしたような、同じくコバルトブルーのドレスの秦茂子さんの登場。
一番心配だったのは、席が席だったので、ソプラノの声が聞こえるかどうかということでした。ひたすら背中を見つめるポジションでしたから。。。
でも、第1声でその杞憂は吹き飛びました。
本当によく通る、艶やかな美しい声。ガラスのような…というのではなく水晶のような声でした。
後ろ側であんなに綺麗だったのだから、正面で聴いたら素晴らしかったんだろうな。。。
そして、不思議な曲ではあるけれどルトスワフスキのように、びっくりハテナな曲ではなくて心地よかった……心地よかったので、数分間記憶が欠落……。
数分間なら大丈夫ではないか、という声もあるでしょうが、いかんせん、この6つの曲、それぞれがとても短い!
2分、2分、1分、3分、2分、2分なのです。
だから、どのあたりで記憶が途絶えたのか定かではなく…ごめんなさいっ!
でも、アンコールとして再演された第3曲の『蝶』は、初めて聴くような感覚だったので、第2曲から第4曲のあたりでだったと思います。

ああ、前半でものすごく疲れました。。。

だから、
シューマン:交響曲第1番変ロ長調作品38『春』(初稿)
のファンファーレを聴いたときは、心底ほっといたしました。。。
若干ゆっくり目のテンポで幕をあけた『春』は、しだいに快活に、雄弁に「春のよろこび」を語りだし、最後は「歓喜」で締めくくっていきました。
ホリガーさんの指揮は、ひじょうにきびきびとして見通しがよく(でも、そっけないわけではない)、小細工がないのがまたこの曲にふさわしいのではないか…とそんな気もさせられました。
友人(というか夫の同僚なので「先生」と呼んでいますが)の感想は「断然、マーラー版がよいわ!」というものでしたが、全身で喜びを表すのではなく小さなガッツポーズをするような、心の中で喜びをかみしめるような初稿もいいものだというのが、わたしの感想♪

ですが、

残念だったのは、最後の音にほとんどかぶさってたくさんの拍手が起こったこと。
なぜ、余韻というものを大切にしようとしないんでしょう。
「拍手は指揮者が手を下ろしてから」です。
そして、演奏が終わってホリガーさんがいったんステージを下がったとたん、3分の1(ちょっとオーバーか、いや、そうぢゃない)ぐらいの人が席を立って、わらわらと帰リ始めました。
まあね、真央ちゃんの結果が知りたいとか映像が見たいとか、ニュースを見逃したくないとか、いろいろな事情があったんじゃないだろうかということは簡単に推し量れるのですが、それでも、あまりにも早いよ、早すぎるよ。。。
ホリガーさんが二度、三度現れて挨拶しているのに、お構いなしに帰っていく人が多くてちょっと悲しくなりました。
これもマナーのひとつではないんでしょうか。。。

外は春の雨。
風がくるくると回り、風に乗って雨粒も激しく踊り
わたしはびしょびしょになりました。。。

とて詠める歌。

【は】 はじめての
【る】 ルトスワフスキ
【の】 覗き見て
【あ】 新たな春の
【め】 めぐり来るなり

みーちゃ亭まりやっこ




最近、タコ壺を出てふらふらしていることが多いなぁ…とちょっと反省!

そこで、ショスタコーヴィチ先生の交響曲第13番をいろいろな録音で聴いていたら、なぜかわからないけれども無性に『大魔神』が観たくなり、三部作を観ました。。。
ああ、また半分壺から出掛かっている。

で、なぜだったのか合点がいきました

三部作の一作目『大魔神』でも「うむうむ」と思いましたが、『大魔神怒る』で確信に!
大魔神の登場シーンで現れる半音階で上行する4つの音型が交響曲13番の第1楽章「バービイ・ヤール」で繰り返し出てくる音型に非常に似ているのです。

そこで、いつものように妄想がふくらみました。

ショスタコーヴィチ先生の交響曲第13番が初演されたのは1962年12月のこと。
コンドラシンによる世界初録音が1965年11月(9月20日の間違いであろうと工藤さんはおっしゃっている)。
これが輸入盤として入ってきたのが1966年ごろのこと。。。
大魔神三部作が作られたのは1966年のこと。

ということは、伊福部昭先生は、大魔神の作曲を手がけていたとき、ショスタコーヴィチ先生の交響曲第13番を耳にする機会があったのではないか……。
あの『大魔神』音型は「バービイ・ヤール」の影響を受けているのではないだろうか……。
ひょっとして伊福部先生はソヴィエトでお聴きになったのではないだろうかっ!!

伊福部昭先生に明るかったら、伊福部先生がタコ先生好きであったかどうかもわかるかもしれませんが、ちょっとそのあたりのことはわからなくて。。。

どうなんでしょう。

ちなみに不気味社(←ほのぼのとした音が流れます。ご注意ください)から出ている「豪快な大魔神」はかなり面白いです。The Swingle Singers(このグループについては、後日記事を書く予定です)もびっくり〜!!

大魔神 Blu-ray BOX大魔神 Blu-ray BOX
出演:高田美和
販売元:角川エンタテインメント
発売日:2009-06-26
おすすめ度:4.5
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昨日の2時過ぎあたりから、ジョニー・ウィアーの妖しく美しい姿が脳内スクリーンから消えず、仕事の途中でも心はうつろ目は宙をさまよい、目の前にある英文に集中できないっ!

だめだ、何とかせねば!
ということで文字に封じ込めることにいたしました。

きっと、この先もいろいろと妄想が膨らんで収拾がつかなくなることもあるでしょうし、前々から作りたいと思っていたので、新しいコーナーを作ることにしました♪

その名も
「みーちゃ、心の短歌」コーナー  友蔵心の俳句みたいですが……。

「この浮気もんっ!」
って、タコ先生に怒られるといけないので、先生を折りこんでみました。
ちなみに、ジョニー・ウィアーがフリーの演技で使用した曲のタイトルは『堕天使』だそうです。。。でき過ぎだ。。。
それにしても、あの素晴らしい演技であの点数はちょっとどうかと思うんですが(まだ言ってる…)。
何か作為的なものを感じてしまったのはわたしだけでしょうか。。。

_1_final_type_a_main_imageでも、キス&クライで薔薇の冠と薔薇の花束がぴったりだったご本人は満足そうだったし、会場のブーイングを耳にしたときに、にっこりしながら手で「抑えて、抑えて」っていう仕草をしていたのが、なんか、こう、ぐぐっときました。
よいわ、本当に♪



では、いきます。

ジョニー・ウィアーが美しすぎるので困る…でも、とても好きだ…とて詠める歌。

b96854455_10-400x600【D】 堕天使か
【E】 エスかと見まごう
【S】 その姿
【C】 カナダの夕べに
【H】 飛来せしきみ


みーちゃ亭まりやっこ



ちょっと落ち着いた。
さあ、仕事仕事っと。。。

ご近所にジョニー・ウィアーがいなくてよかった(どういう想定だ!)。
何も手に付かなくなる。

これ欲しいです。。。

ジョニー・ウィアー 氷上のポップスター [DVD]ジョニー・ウィアー 氷上のポップスター [DVD]
出演:ジョニー・ウィアー
販売元:新書館
発売日:2010-02-03
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ジョニー・ウィアー:氷上のポップスター
iconこちらはHMVへ)


今回のオリンピックの映像や『poker face』(←言葉にできないほど素敵!好みは分かれると思いますが、わたしはこの雰囲気に壊滅的に弱いのだよ)が収録されたDVD出ないかなぁ。。。
twitterでJohnnyのつぶやきを見つけて、すかさずフォローしたわたしはストーカー気質かな

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1ヶ月位前に届いた悩ましい手紙。。。

え〜っ!
次はこのシリーズですかっ
チラシ 067「たとえ捕まっても、当局は一切関知しない。。。なお、このテープは自動的に消滅する」
しゅわしゅわしゅわ〜。。。
ああ、また煙がでたぁ〜!!!

日本で放送が始まったころは、何しろまだ相当に幼かったので(?!)、内容そのものがどうこうという記憶はちょっとアレなんですが、
このしゅわしゅわテープが出てくるだびにドキドキして、あんなテープがあったら困るな…とか
「とうきょく」ってどんな「きょく」なんだろう、でも強そうな「きょく」だな…と、これまたドキドキしていたことだけは記憶にあります。
お気に入りはメカのプロ、バーニー・コリアだったような気が(しぶい子供だな)……。

チラシ 068で、この案内が届いたとき、激しく動揺したわけですよ。
「刑事コロンボ」シリーズを定期購読して45本のDVDの置き場所確保に苦労したわけで、今回の「スパイ大作戦」はそれを上回る65本!
すでに部屋の中も物であふれ、階段にも古本屋さんのようにいろいろなものが積んであるというのに。。。

しかし、どうしても観たい〜〜〜
ってことで、本日定期購読の手続きをしてしまいました。。。
わはははは。。。


だって、2月20日までに手続きをすると、「シークレット手帳・ペンセット」(昔「スパイの缶詰」というものを持っていて、その中にこの「水に濡れると消える紙」と同じようなものが入っていたような気がする)と500円分の図書カードがもらえるし、創刊号から第65号まで購読で、アタッシュケース風スパイDVDラックももらえるんだもん!(←こういうものが届くとまた困るんでしょうがっ!by理性の声)

ああ、完全にデアゴスティーニの思う壺だな。。。

しかし、次から次へとよくもまあこれだけ心をくすぐるものを出してくれるものだと、感心するやらあきれるやら。。。
「DVDオペラ・コレクション」は欲しい号だけ買おうと思って数が増えなかったのは幸いで、「週刊フェラーリ」はぐぐっと我慢。「CSIシリーズ」も、wowowで見たし…ということで我慢。「東映時代劇シリーズ」と「ウルトラマン」はあぶなかったなぁ。。。


でも、「刑事コロンボ」は速攻で注文してしまいましたよ〜。
だって、好きなんだもん!
「刑事コロンボ」で感心したのは、テレビで放送されたものをそのままDVDにしたのかな…と思っていたんですが、日本語吹き替えがところどころ追加・編集されていて、よりオリジナルに近いものに仕上がっているんです。
このあたりのことを詳細に知らせてくれるブックレットも非常に丁寧に作られていて読み応えがあります。
追加録音の部分は小池朝雄さんではなく、銀河万丈さんがコロンボ役をつとめていらっしゃいますが、あまり違和感は感じませんでした。
あ、ついつい日本語吹き替え版を観てしまいますね。やはり、あの声こそがコロンボにふさわしい…というか、ピーター・フォークの声って、ちょっと甲高くて雰囲気が違うんだもの。。。

「スパイ大作戦」も日本語版で見そうな気がしますな。

そうそう、コロンボで好きな作品は本当にたくさんあって何が一番とは簡単に言えないのですが、ジャネット・リーが犯人役の『忘れられたスター』と「ハロウィン」シリーズや『フェノミナ』でおなじみのドナルド・プレザンスが犯人役の『別れのワイン』がわたしの中では別格扱いとなっております。

4c8487d5.jpg部屋の中に納まりきらないものは、こうして廊下に並べられることに……。
右の端には「刑事コロンボ」シリーズの一部が並んでいます。
東宝の『巨大生物箱』が並んでいるあたりから、みーちゃの怪獣好きな一面を伺うことができますね。。。


怪獣や、怪奇関係や、作戦関係に弱いということは、次に出たらすごく困るものはこれでしょう。。。

「ウルトラQ」と「怪奇大作戦」

困ると言いながら熱烈歓迎なんですが、せめて「スパイ大作戦」が揃うまで刊行は待ってください、
DeAGOSTINIさん!


雨降りだ! 本を読もう!!
 
 ということで、この数日いろいろな本を読んでいる。ならば晴れの日は屋外で元気よく活動しているのかというと決してそういうわけではない。
 元来出不精なので、必要最小限の外出しかしない。
 お出かけ先リストに挙がっているのは演奏会ホールと病院で、出かけても月に数回程度。
 小スポットはいくつかあるが、それでも、せいぜい家から100メートルほどの各種コンビニ、500メートルほどの「サンエース」(昔ながらの市場)、よく頑張っても徒歩で15分ほどの「サンクレア」か「ピアゴ」(いずれもスーパー)ぐらいだ。
 夕食材料はほぼ毎日配達があるし、かさばったり重かったりする日用品もネットで買えてしまうので買い物に出なくてもさほど困りはしない。
 ありがたい世の中であるとともに脆い世の中でもある。ショクブンとアスクルとアマゾンがなければ我が家のささやかな日常生活はたちまちのうちに崩壊する。
 昨年末まではアルバイトをしていたので、週に3〜4回の規則正しい外出ということもあったが、それも辞めてしまった今となっては、ああ3日間一歩も外に出なかった……ということも珍しくはない。
 というわけなので、私の場合、天候と読書の間にはなんら因果関係はないのだが、やはり静かにしとしと降る雨の音(今日は本当にそんな音がしている)というのは、気持ちを落ち着けてくれる作用があるのか、読書に集中できる気がする。
 という次第でここ数日いろいろな本を読んでいるわけだ(ああ、よかった、最初に戻れた)。

 まず、新聞で新刊広告が取り上げられていた岸本佐知子さんの『ねにもつタイプ』を読んだ。講談社エッセイ賞を受賞した作品だ。
 もちろんタイトルに「びびっ!」と惹かれたのだが、この際、私が根に持つタイプか否かということは脇に置いておこう(まあ、数々の証言から、どうやら私は「ねにもつタイプ」に分類されるようだ。ただし私見を述べさせていただけば、これでも根に持たないように努力はしているのだ。気に障ったことをいちいち根に持っていては身がもちやしない)。
 これが抜群に面白いのである。
 著者の岸本佐知子さんは数々のすばらしい訳書を、しかもかなり風変わりな現代アメリカ作家の作品も数多く世に出していらっしゃる翻訳家なのだが、いったいこの人の頭の中、というか思考回路はどうなっているのだろうかと、エッセイの内容以外の部分にも興味が湧いてしまう、妄想、奇想のオンパレード。
 妄想に関しては人後に落ちない自信があったのだが、この人の摩訶不思議な妄想ダッシュの世界にあっては、私の妄想など、小学生のスキップのようなものだ。
 日常生活をのぞいてみたい、一日でいいから入れ替わってみたいと、年齢も近い(私より一年早く生まれていらっしゃる)こともあって、岸本さんに対するわたしの妄想は日を追ってエスカレートしている。こうなると2006年5月刊行のもう一冊のエッセイ『気になる部分』も気になる。
 買って、読んだ。
 もう、たまらない。
 ソファの上で透明人間化していたかと思うと、いきなり「わはは」とか「けけけ」とか笑い出す私はさぞかし不気味なことだろう。でも、仕方がない。面白すぎるのだ。
 普通のできごともこの人にかかってしまえば、上質、良質のユーモア(これがたまにブラックだったりするところがまたたまらない)を交えた壮大なファンタジーにたちどころに姿を変えてしまう。
 ああ、会ってみたい。
 これだけ素晴らしく、かつ、リズム感のある文章を産み出される方なので、翻訳していらっしゃるものも気になる。エッセイの中には、苦闘したり、脱線したり、妄想したりの試行錯誤の翻訳作業についても触れていらっしゃるので、翻訳書もぜひ読まなければ……と思うのは当然の流れだ。とりあえず、『君がそこにいるように』『ほとんど記憶のない女』(私のことか?)、『もしもし』あたりから始めようか。
 きっと最初から日本語で語られているような見事な文章なんだろうな。
 私も頑張ろうと思うか、自信喪失になるのかは今のところ未定である。

 次に、深水黎一郎さんの『五声のリチェルカーレ』を読んだ。
 『エコール・ド・パリ殺人事件』や『トスカの接吻』で、う〜むと感動し、その後で2007年の第36回メフィスト賞を受賞したデビュー作『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ』を読んで、「読者が犯人」という結末に、「やられた〜、でも、これってありか」と苦笑い。
 『五声のリチェルカーレ』は、「計算し尽くされた〈企み〉を誰も最後まで見破れない」という帯の文句からして『ウルチモ…』に近いんだろうなと思って一気に読んだ。
 なるほど、またやられた。
 途中で犯人はわかったし、読了直後は不全感が残った。が、しかし、不思議なことに、読み終わってしばらくの後、内容を反芻していたらものすごく面白くなってきたのである。
 ポイントは擬態である。そして「五声のリチェルカーレ」である。犯人が誰であるかは気をつけて読めば一目瞭然。素晴らしいミスリードにブラヴォ。
 ああ、『音楽の捧げもの』が聴きたくなった。

 さらに、4月から、一通りはやったけれども、それ以降ほったらかしにしてあったフランス語をもう一度スタートさせようと(4月が近くなると無性に外国語が勉強したくなるのは一種の季節病のようなもので、昨年はロシア語だったが、1ヶ月でものの見事に挫折した)学習書をいろいろ読んでいたら、ジョルジュ・ベルナノスの名文に出会ってしまった。
 『田舎司祭の日記』からの一文だ。
 取り急ぎ、原書と英訳を注文。
 カトリックの立場から、人間の悪の問題を、鋭い写実描写により追求したベルナノス、どうも私の好きそうな世界が繰り広げられている気がするではないか。
 ええい、1冊増えても同じだと、処女作であり、1987年のカンヌ映画祭でのグランプリ受賞作『悪魔の陽のもとに』(ジェラール・ドパルデュー主演)の原作ともなった『悪魔の陽のもとに』も購入(こちらは日本語訳)。
 いずれも数日中に届く予定なので、早く読みたくてそわそわしながら、ベルナノス、ベルナノスとつぶやいている私に
「これを見るように」
 と夫から手渡された一枚のDVD。
 プーランクのオペラで、タイトルに“Dialogues des Carmelites”とある。
 原作は、そう、ベルナノスの『カルメル会修道女の対話』である。
 しかし、ああ、だめなのだ。
 原作があると知ってしまった以上、そちらを先に読まずして、オペラを見ることなどできはしない。
 このあたりが自分でも難儀なやつだと思うのだが、どうしてもだめなのである。だから『ムツェンスク郡のマクベス夫人』もレスコーフの原作を読んでから、オペラのDVDを観ることとなった。
 かつて独身時代の夫の書棚には「ベルナノス著作集」があり、その中のどれかに収められていたはずだと言う。ちなみに何度かの蔵書整理の間に、それは失われしまったとか。嗚呼。
 さっそく捜索開始。すぐに、この『カルメル会修道女の対話』は「ベルナノス著作集第3巻」に収められているということがわかった。
 しかし、懸命の大捜索にもかかわらず(これに昨日ほぼ一日を費やした)、この第3巻というのが、新刊はもちろんのこと古書でも見当たらない。全6巻揃というのが2軒の古書店で見つかったが、いかんせん高い。
 かなり悩んだ後、グーグル・ブックスでも検索してみた。探している間中、ずっとドキドキしていたが結局見つけることはできなかった(というかフランス語版はあったが、中を見ることができなかった)。普通に考えれば残念な結果なのだろうが、見られないことに安堵し、さわやかな気持ちになったのは何故だろう。
 さらなる捜索の結果、唯一定価(しかも新品)で入手できそうな先を見つけたが、道のりはなかなか険しそうである。

 ああ、ベルナノスがこんなにも私を呼んでいるのに! 
 机の上にはDVDがあるのに!

 たまたま数冊から始まった本読みの結果がこうである。
 五声のリチェルカーレどころか無限カノンの様相を呈しているではないか。

 そろそろ雨が止んでくれないと困る。
 雨が続く限り、読みたい本や気がかりな本は毎日毎日増えていきそうだ。
 本が増えるということは、それだけお金がかかり、新たな本の置き場所を確保するために、今ある本をあちらこちらに移動させなければならない労力が増すということを意味している。 
 壁面に並んでいるCDのMahlerという文字が目に痛い。机の端ではアルマが横目で催促する。ごめん、アルマ。今はベルナノスに夢中なの。ベルナノスのカルメル会修道女が私を……。

 あっ、そうか、図書館に行けばいいのだ。
 なんという素敵な思いつきなのだろう。

 雨が上がったら図書館に行こう。

 そして、私の外出リストに「図書館」を付け加えることにしよう。


ねにもつタイプ (ちくま文庫)ねにもつタイプ (ちくま文庫)
著者:岸本 佐知子
販売元:筑摩書房
発売日:2010-01-06
おすすめ度:5.0
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気になる部分 (白水uブックス)気になる部分 (白水uブックス)
著者:岸本 佐知子
販売元:白水社
発売日:2006-05
おすすめ度:4.0
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五声のリチェルカーレ (創元推理文庫)五声のリチェルカーレ (創元推理文庫)
著者:深水 黎一郎
販売元:東京創元社
発売日:2010-01-30
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