マーティン・ブラビンス氏来日記者会見&リハーサル見学
CIMG1604日時:2012年7月3日(火)
記者会見:11:00〜12:15
リハーサル見学:13:00〜15:15
会場:
記者会見/名古屋市音楽プラザ4F 中練習場
公開リハーサル見学/6F 見学室

登壇者:
マーティン・ブラビンス (次期常任指揮者)
神尾 隆 (名フィル理事長)
森本 節子(逐次通訳)


2013年4月から名フィルの第8代常任指揮者に就任することとなったマーティン・ブラビンスさん。
今週末に定期演奏会を控えての来日ですが、その来日記者会見と公開リハーサル見学に一般でも応募が可能なことを知り、「当たりますように!」と応募したら、夫とともに当選しました。

というわけで行ってまいりました!

「こうしたい」「こう関わっていきたい」という明確な考えをお持ちになったブラビンスさんの会見は聞き応え十分で、質疑応答にも、誠実に丁寧に応える姿勢に多いに感動しながら、来年度から3年間のご活躍が今から楽しみでしかたなくなってしまいました。
どのようなことをお話しになったのか、聞き取れた範囲内で書いてみたいと思います。
10ページにわたる、判読がかなり難しいメモを見ながらの作業なので、どうなりますことやら……。
今回渡された資料や、見聞きしたことについてブログに書いてもよいとの許可を得て書いています。
写真撮影も音の出ないものでの撮影は許可されていました。
ブラビンスさんがお話になった内容については、基本的に英語を聞き取ったものを書いていこうと思うので、文責はわたしにあります(汗)
なお、以下の文章の太字の部分は、わたしが適宜つけた「見出し」のようなものです。
( )内は、わかりやすくするために適宜補足しました。

まず、名フィル理事長の神尾隆さんからご挨拶がありました。
1966年に創立された名フィルは2016年が創立50周年にあたります。
その記念年に向けて、名フィルを、さらに質の高いオーケストラにすべくブラビンスさんに常任指揮者を依頼したところ快諾していただけたとのこと。
その後、ブラビンスさんのプロフィール紹介がありました。
マーティン・ブラビンスさんのように信頼が厚く、経験の多い指揮者のもとでさらに技術を磨き、子供から大人まで幅広い層に愛されるオーケストラを目指したいとのことでした。
そのためにも、ブラビンスさんにも、いろいろな人に喜んでもらえるようなアイデアを出してもらいながら、事務局、オーケストラ一丸となって協力して目指すものに向けて邁進していきたいとのことです。

*****

「このあと5時間のリハーサルが控えているのでお手柔らかに……」というニュアンスの一言が最初にあり穏やかな雰囲気の中で記者会見は始まりました。
以下ブラビンスさんのお話です。

名フィル、そして名古屋のこと
この数年の間に定期演奏会で名フィルを2度指揮しています。
その時に名フィルに対して感じたのは、オーケストラ楽員さんが非常に前向きで、芸術に対しての志がたいへん高いということでした。
海外のオーケストラは、いろいろな人種から成り立っています。しかし、名フィルはほぼ全員が日本人です。
このような構成のオーケストラを指揮するというのは、非常に稀有な経験です。
日本人はとてもよく練習をしています。準備が整っているということで、プロ意識が高いのだと思います。
そして、2度の名フィルとの演奏会で、楽員や事務局の皆さんが非常に友好的で親切だったことも印象的でした。
そして化学反応とでも言えばいいのでしょうか、非常に相性がよく、親密な関係が築けたと思うので、これからもお互いが協力し合ってやっていければと考えています。
また、聴衆もたいへんに暖かでした。提供される音楽を聴いてリラックスするというだけではなく、楽員にエネルギーやヤル気のようなものを与えてくれると嬉しいです。
常任指揮者受諾について
そのようなオーケストラから常任指揮者をというお話がきて驚きましたが、とれはとても名誉なことです。
時には家族を伴ってということもありますが、基本的にいつも一人で指揮活動をしているので孤独なのです。
「常任」というのは、家族的な響きをもっています。
オーケストラは家族、その家族の一員という形で迎えられるのがたいへんに嬉しいわけです。
常任指揮者としての責任
とはいえ、「常任」というのは非常に責任のある立場です。
プログラムの企画、音楽を作り上げること、オーケストラの質や楽員の士気を高めるというのも仕事のうちです。
これは、一種の戦いのようなものでもあります。
前回より今回のほうがより質の高い演奏ができたと、毎回思えるような音作りをしていかなければなりません。
2013年のスケジュール
2013年度は10回指揮をすることになっています。
もっと多いほうがいいのではとも思いましたが、3回来日して10回振ります。
定期演奏会と「ブラームス・ツィクルス」です。
「ブラームス・ツィクルス」について
ツィクルスではブラームスを取り上げるのですが、ここでは2人の若手に注目していただきたいです。
第38回、ヴァイオリン協奏曲でのジェニファー・パイク。
第40回、ピアノ協奏曲第2番で共演するボリス・ギルトブルク。
この2人との共演は非常に楽しみです。
そして、ツィクルスではありませんが、405回の定期演奏会に登場する上原彩子さんもすばらしい。
プロコフィエフのピアノ協奏曲の第2番、これはピアノ協奏曲の中で一番難しい曲ではないかと思うのですが、彼女の演奏したチャイコフスキー2番、プロコフィエフ2番が素晴らしかったので、とても楽しみです。
来年度の定期演奏会のテーマについて
今年度のテーマは「伝説」だと思いますが、来年度のテーマは《ガイア》。
空気、火、水といった「自然の力」です。
「ハーモニー(調和)」「不協和」「コード」……音楽こそ自然の力なのではないでしょうか。
18世紀、19世紀、20世紀の音楽家たちが創り出した曲をさらに新しく作り直すということは「自然の力」そのものといえましょう。
時に失敗もありますが。
定期についての個別の思い
第404回が常任指揮者として最初の演奏会になりますが、ヴァーグナーの生誕200年を記念して、オール・ヴァーグナー プログラムを選びました。
ソプラノにはスーザン・ブロックを迎えます。彼女は素晴らしい。
ヴァーグナーを7曲やります。やりすぎじゃないかと思われるかもしれませんが、ヴァーグナーを弾くとオーケストラの質が高まるのです。
第405回はロシアの作品を取り上げます。
私は20代に2年間レニングラードで過ごしました。
イリヤ・ムーシンのもとで指揮法を学んでいたのです。
そういうわけもあって、ロシア音楽は私の音楽活動の大切な一部です。
まず、ナッセンの「花火と華麗な吹奏」。これは非常に新鮮な響きをもっていると思います。
そしてプロコフィエフのピアノ協奏曲。
最後にストラヴィンスキーのバレエ『火の鳥』全曲をもってきました。
そして3度目の指揮となるのは第410回定期演奏会。
ここでは藤倉大の『(木管楽器・打楽器による)5人のソリストとオーケストラのための曲(《Mina》)』を取り上げます。
これは委嘱作品で、日本初演です。世界初演はアメリカで行なうことになっています。
ブリテンの先生にあたるブリッジの音楽詩『海』も美しい曲です。
ブルックナーの第4番で締めます。
定期外の企画
定期で3度来日することになっていますが、その前後に、定期とは趣きの違った演奏会を行なえないものだろうかと事務局とともに考えています。
いつもとはちょっと違った何か、大規模な編成ではなく、室内楽のようなもの。
テーマを少人数という別の側面からとらえて何かできないか模索しています。
そして、わたしが来るときには、こう、お祭り的な何かを打ち出せたら……と考えています。
それ以外の企画としては、もっと地域に根ざしたアウトリーチ的、教育的なものも何かできたらと思います。
「コンサートホールから外に出よう」みたいなことですね。
あまり演奏会には来ない、来れない人向けのイベントやワークショップを考えています。
来てもらうのではなく、こちらから音楽を提供するという立場です。
ヨーロッパに比べてこういう活動は日本は遅れていると思うので、何かできればいいと思います。
今週末の定期演奏会について
今週末の定期演奏会では最初にバックスの『ティンタジェル』を取り上げます。
アーサー王伝説に基づいていますが、岩からできた島、崖っぷちの丘にまつわる曲です。
わたしも幼い頃に訪れたことがありますが、「おお〜」という感じでした。
ウォルトンのヴァイオリン協奏曲のソリストは新しいコンサートマスターに就任する田野倉雅秋さんです。
そして最後はラフマニノフの交響曲第3番。
ラフマニノフというのは、わたしにとってソウル・メイトのような存在です。
いずれも名古屋初演というのは驚きでした。

こんなところでしょうか。
もう十分話しました。言い尽くしました。
記者の皆さんは私の話を聞いたり書き留めたりで大変だったでしょう。
今度はみなさんの番です。皆さんから、答えるのが大変な質問いただければ嬉しいです。

――質疑応答――

Q:中日新聞
「世界的に活動しているブラビンスさんから見て、名フィルはどの程度のレベルか。また、どれぐらいのレベルに上げていきたいか」
A:
先日アムステルダム・コンセルトヘボウの指揮をしました。
素晴らしいオーケストラです。
それぞれのオーケストラはまったく別のものです。
それぞれに強みがあり、また弱みもある。
ですから、どのオーケストラが、どのオーケストラに比べてどうこうという質問には全く意味はないし、わたしもそんなことには興味はない。
良し悪しという問題ではない。
私がやろうとしているのは、オーケストラと協力し合い、一丸となって音楽を作っていくこと。
オリンピックのような競技では、競い合うことに意義があり重要なことですが、芸術はそういうものではありません。
いかにしてオーケストラを最高の状態に導いていくかということが私にとって大切な仕事なのです。
名フィルには、いろいろと向上させなければならない点もありますが、どのようにしたらそれらが解決するのか模索していきます。

Q:朝日新聞
「名フィルの音色の特徴は?」「名フィルのどのような部分を伸ばしていきたいか」「日本の文化で好きなもの、興味のあるものは何か?」
A:
非常に明るく、明快で、曇りのない音。
日本流というか規律の正しい音といえます。
これは、ファゴットとクラリネットの2人の外国人を除くとあとは日本人ということからきているのかもしれませんが、ゆえに、ヴァーグナーやブラームスのように陰をもった音に磨きをかけていきたいと思います。
同一性というのも大切ですが、もっと豊かで魂のこもった激しい音も出せるようにしていきたい。
日本文化については、実は妻が脳腫瘍を患ったことがあり、今は回復してきていますが、手術後に脳のトレーニングも兼ねて日本語の勉強を始めました。わたしには日本語はチンプンカンプンですが。
妻が日本語を勉強し始めたのは名フィルから打診がくる前の時期にあたります。
これまで東京と名古屋には来たことがありますが、それ以外のところには出かけていません。
パリで劇場の芸術監督をしている日本人の友人がいるので、伝統的な劇場に興味があります。
相撲なども見てみたい、本当ですよ。
食べ物はいいですね。宿泊しているホテルの割烹の主人が今夜鰻を用意してくれるみたいなので、楽しみです。

Q:「常任期間内でこれだけはやりたいこと」
A:
少しずつ、ゆっくりと、たゆまぬ努力を続けオーケストラの質を向上させること。
名フィルを世界的にも高い評価を得られるようなオーケストラにし、常に高い水準でいられるようにすることです。
それから、アウトリーチ的な活動。
CDの録音も積極的に行なっていきたいです。
録音というのは、失敗があってはいけないし、正しい音を出さなければならないので、オーケストラの質の向上につながります。

Q:記者のハヤカワさん
「ブラームス・ツィクルスは最近も行なわれたが、再びやるのはブラビンスさんの意志か?」
A:
ブラームス・ツィクルスのことは知っているし、事務局と話し合いも重ねました。
そのうえで私が決めました。
ブラームスの音楽はオーケストラのトレーニングには最適な曲でそれが大切だし、私はブラームスの曲は大好き。
聴衆にとって聴きがいがあり、オーケストラにとってもやりがいがあります。
何よりもブラームスのアプローチは現代的です。
それでも、「やはりやったばかりでちょっと……」というのであれば、まあ、それは「人生なんてそんなもの」と思ってください。

予定時間を5分ほど過ぎて記者会見は終了しました☆

「私的感想文」は日を改めて……。
というか、ブラームス・ツィクルスは個人的にはすごく楽しみです

なお、今日の記者会見の様子は、CBCとNHKの夕方のニュースで放送されたみたいです。。。